<<キーンコーンカーンコーン…>>
村民たちはその鐘の音が鳴れば働き出す程、イセリア村に建つ学校は馴染み深いものとなっていた。
「ロイドっ!!あなたまた花瓶を割ったでしょう!」
「だーー!それは悪かったけど、ちゃんとくっつけただろー!?」
ロイドと呼ばれた青年とその女教師リフィルのいわゆる”追いかけっこ”はもはや村の名物。
「直せば良いってものじゃないでしょう!待ちなさい!!」
「えええええっ!?」
確かにロイドの直した花瓶は元の状態よりも綺麗に仕上がっていた。
だがむしろその完璧な仕上がり具合がリフィルのやり場のない怒りスイッチに触れていた。
言うならばむしゃくしゃしていた。
「まーたやってるよ、ロイドとリフィル先生」
「ロイドも懲りないよなー。ま、それがロイドの良さなんだけどさ」
<<キーンコーンカーンコーン…>>
「あっ、先生!チャイムだチャイム!ほら授業しないとだろ!?」
「まったくあなたという子は…教室に戻りなさい」
「へへーっ」
鐘の音がスタートの合図となれば、ストップの合図にもなる。
「ただし、バケツを持って後ろで立っていなさい」
「ええっ、嘘だろおおおお!?」
村の名物にもなっていたその”恒例行事”は、神子に神託が下る日まで続いたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なるほど、ロイドくんもなかなかのワルだったわけか」
「ロイドもロイドだけどこの時の姉さんもよく飽きなかったよねー」
「飽きる飽きないの問題じゃありません!まったくあの子には手を焼いたわ」
サイバックの街からガオラキアの森に入ろうかという途中、野営をしていた一行はそんな思い出話に浸っていた。
「でも先生、この前イセリアに戻った時に学校へ寄ってみたらロイドの直した花瓶が綺麗に置かれてましたよ?」
「確かにあの子の手の器用さは認めます。図工の成績も一人だけ抜群だったもの。」
「あの熱血漢のロイドくんとは思えない特技だよなぁ」
「それとこれとは別!割った事実は変わらないのだからそれに対する罰は与えないといけなくてよ」
少し行き過ぎているのではないかと思えるほどリフィルの教師への思いはそれほど強かった。
全ては生徒に対する愛情の裏返しなのだと誰もが知っていたため誰も疑問には思わなかった。
それほどリフィルは”教師”として信頼されていたのだ。
「おーいみんなーっ!薪拾ってきたぞー!」
「あ、噂をしたらロイドだ」
野営の準備をするにも薪が肝心。近くまで薪の調達へ行っていたロイドが戻ってきた。
「なあなあっ、さっきあっちですげー面白い形の樹を見つけたんだ!ジーニアス、後で見に行こうぜ!」
「え、あっちはガオラキアの森の方向だよ?迷っちゃったらどうするの?」
「大丈夫だって!ちょっと行って帰ってくるだけなんだし」
「いけません!団体行動時に独断で行動したらいけないと何度言えば分かるのかしら?」
ロイドとジーニアスをやりとりに釘を刺すリフィル。
確かにロイドは強い。しかしリフィルにはロイドを守る義務があった。教師として。
「ちぇー…」
「しょうがないよ。また今度みんなで行こうよ」
夕飯の支度を始めるジーニアスを見送り肩を落とすロイドであった。
しかし、その目は別のことを考えていた。
「今日のメニューはマーボーカレー!できあがり!」
「わーすごいすごい!美味しそう!」
「ガキんちょのくせにいっちょ前に美味そうじゃねえか!」
「くせに、は余計だよ!」
テーブルに並べられた綺麗なマーボーカレーを見て感想を述べていく一方、
リフィルだけが異変に気づくのだった。
「みんな、ロイドはどこへ行ったのかしら?」
「用を足しに行くって言ってたけど…」
「まさか!!」
気づいた途端リフィルは立ち上がり、森の方角へと走り出した。
「姉さん!!」
「みんな、その場を動かないように!散り散りになると合流ができなくなります!」
そう言うとリフィルは森の奥へと消えていった。
「先生、いったいどうしたんだろ?」
「大方ロイドくんを探しに行ったんだろ」
「えええっ!?それであの森に一人で?危険すぎるよ!」
「リフィル様の言うことも一理あるっちゃあるが…まぁこうなりゃ任せるしかねーよ」
「そんな…姉さん、ロイド…」
リフィルの真剣な表情から何かを読み取ったゼロスはそう言うしかない。
誰にも聞こえない小さな声で「ちくしょう」と呟きながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ロイド!返事なさい!!」
自分でも思うほど浅はかだった。
死の森と言われるガオラキアの森へ簡単に足を踏み入れてしまった事実が。
しかし自分の大事な生徒が危険な目に合っているのかもしれないと思うとその足を止められなかった。
「まったく、いつだってあなたは…」
思えばいつもそうだった。ロイドは自分の予想の全く逆の事をして皆を困らせた。
でもそれが最終的にいつも真理で、皆の心を動かしていた。今回だってそうかもしれない。
「ロイド…」
今回だって何事もなかったかのようにひょこっと顔を出し皆を驚かすかもしれない。
でもそれはあくまで推測。
”その推測に揺らいではいけない”と、リフィルは自分に言い聞かせるのだった。
<<ザシュ!ザンッ!ドカッ!!>>
森の奥から微かに聞こえる斬撃音。間違いなくロイドのものだ。
その方向へ向け、リフィルの足は動きを早めた。
「ロイド!!」
「先生!?」
リフィルが辿り着いた先には、ロイドと魔物たちが対峙していた。
「先生、どうしてここが!?」
「お説教は後です、今はここを片付けるわよ!」
リフィルの表情から怒りを読み取ったロイドはこの後自分の身に起こる事態を嘆きながら魔物へ剣を向けるのだった…。
「………ごめん、なさい」
「ごめんで済む問題じゃなくてよ?」
そしてロイドの予想通り、お説教タイムだ。
「どうしてこんな事をしたの?何か目的があったのでしょう?」
「この先にすげー形の樹があったんだ。それをみんなに見せようと思って…」
「単独行動は慎みなさいと何度も言っているはずです。それを破ってまで見せたい物なのかしら?」
ぐうの音も出ないロイドに呆れを通り越したリフィルはとりあえず正座のロイドを立たせる。
「先生?」
「案内なさい、その樹のところへ」
リフィルの言葉はロイドが予想していたものと違っていた。
リフィルは確かめたかったのだ。ロイドの真意を。
「!! これは…!」
リフィルの前に映し出された光景。
それは微かな月の光に照らされた幾数もの樹と樹の根が絡み合い、黄金の輝きを放つ光景であった。
「この樹を見つけた時に思ったんだ。この樹はゴールなんだって」
「ゴール?」
「ああ。俺たちが今しようとしてる本当の意味での世界再生、それのあるべき姿を見せてくれてる。俺はそう感じたんだ」
そこには先ほどの悪ガキではなく物事の真理を口にするロイドが居た。
先ほどまで呆れていたリフィルの顔から笑みが零れる。
「…まったくあなたは、どこまでも本気なのね」
「先生、こんな所までごめん。でも俺はどうしても誰かにこれを見せたかったんだ」
「時々怖くなるの、どこまでもどこまでも成長していくあなたが」
「いつか、本当に私の見えない所まで行ってしまうのではないか、って」
リフィルは教え子の成長を見るには悲しい目をしていた。
「先生……」
鈍感なロイドもそんなリフィルの異変は感じ取る事ができた。
「大丈夫だよ、その時は俺が迎えに行くから!」
「!!」
全てを見通したようにそう言い放つ青年のその純粋すぎる眼差しに、いつしかリフィルの女性という部分の心を動かされていた。
「…必ず、迎えに来なさい。あなたは私の教え子なのだから」
その言葉はまるで自分に言い聞かせるようだった。
あとがき 2015/3/18
ロイドは本当に罪作りなやつですね。(ぁ シンフォニアはプレイする程好きになる作品です。
ロイドの事を一番よく知っているキャラで書こうと思うと先生になりました。