『お姉ちゃん』

「アリシア…?」

『お姉ちゃんはどうしてリーガル様と一緒にいるの?』

「アリシア、何を…」

『その人…そいつは、私を殺した人なんだよ?お姉ちゃんもそいつの味方なの?』

「違う!アリシア、違うの…っ」

『さようなら』



「アリシアぁああっ!!」
「!?」
「…あ、ロイドさん」

幼い少女の目線の先には何があったのかと目を点にした青年がこちらを向いて立っていた。

「プレセア、どうしたんだよ?すごいうなされてたぞ」
「いえ、なんでもない、です。」
「そうか?」
「…そう…です」

ハイマ山脈に来ていたロイドたちは登山の途中に遭遇した魔物に襲われ、仲間が散り散りになってしまった。
その中でロイドとプレセアは幸い近くに飛ばされており二人で行動を共にしていたのだった。
遭難して一日が過ぎ、ロイドはプレセアに異変を感じた。

「それにしても高い山ですね。標高はどのくらいなんでしょう」
「そうだな。テセアラだとラーセオン渓谷ぐらいはあるんじゃないかな」
「早く皆さんに合流しないと…」
「ああ、日が暮れちまう」

そう言ってロイドは寝袋をカバンに直し、出発の支度を整えた。

「よし!行くか」
「ロイドさん、そっちは来た道です」
「え、あ、こっちだったか?」
「そっちの方向は崖があるから行かないようにしようと昨日の夜決めたばかりです」
「………。」

本当にこの人は以前この山を登ったのだろうか、とプレセアは珍しく呆れながら思った。
だがそのロイドの行動の一つ一つがプレセアの感情を確かに豊かにしていた。

「じ、じゃあこっちの道…で、いいのかな?」
「そっちはまだ行ってませんね。行ってみましょう」
「……ほっ」

ロイドはなんとか正解を当て胸をなでおろした。4分の1の確率で2回も外している事など彼は気にも留めていないだろう。

「行けば行くほど道が分からなくなってる気がするなぁ」
「そうですね。足場も悪くなってきています」

急斜面の山道をペースを落とすことなく登っていく二人だったが
二日目ということもあり顔には出ていないが二人とも体力が削られているのを感じていた。

「くっそ、レアバードがあればなあ」
「燃料切れですから仕方ありません。後でしいなさんに補充してもらいましょう」
「そうだな」

荷持を背負いながら登っていくロイドだったが一方のプレセアは別のことを考えていた。


『そいつも人を殺した。殺人鬼』

『お姉ちゃんは、殺人鬼の味方なんだ』



「っ!?」

脆くなっていたのか途端にプレセアの足場が崩れた。その瞬間に掴まる部分を探したプレセアだったが触ることができなかった。

「きゃあああっ!!」
「プレセア!!!」

山道を転げ落ちそうになるプレセアだったが、ロイドが右手を掴んだことによってなんとか留まることができた。

「あ、ありがとう…ございます…」
「あっぶねー、怪我とか大丈夫か?」

もしロイドさんがいなかったら、私は闇のように暗い谷底に飲まれていた。
アリシアの死という決して逃れられない深すぎる闇の底に。

「あの…ロイドさん」
「うん?」
「ありがとうございます」
「はははっ、何だよそれ。ありがとうはさっきも言っただろ」
「…そうですね」
「さ、もうひと頑張りしようぜ!」

闇に飲まれかけていた私を救ったロイドさんはいつも輝いていた。
私をクルシスの輝石から解放してくれたとき、コレットさんがさらわれたとき、ジーニアスやリフィルさんが種族の問題で虐げられそうになったとき…

「…………」
「ん?どうしたんだ、プレセア」
「いえ…何でもありません」

…なにか、胸を締め付けるこの感じ。でも嫌ではない不思議な感じ。…

その”感じ”を感情的に表現できない自分が嫌になる。

「…でも」

でも、ここで表現を諦めてしまったら私は生きている意味が分からなくなってしまう。
出さずに…出せずに、後悔するのは、もう嫌だから。

「ロイドさんは、私の光です」

プレセアの瞳は決意の色をしていた。

「ロイドさんはどんなに苦しいときでも輝いていました。目の前の人を救うことにただ一生懸命で、私はその姿が眩しくて」
「それで私は…それで、それからっ、私は…」

涙…見せちゃ駄目なのに…

「プレセア、泣いても良いんだ」
「…え…?っ」

そう言ってロイドはしゃがみ込み、プレセアの小さな体を大きく包み込んだ。

「ろ、ろいど、さ…」
「嬉しくても悲しくても泣いたら駄目なんだって俺はずっと思ってた。でもその涙は泣いてもいい涙なんだって昔親父に教わった。」
「う、ぅ…うああぁぁっ!私、わたし…っ!」
「俺にプレセアの受けてきた苦しみは分からない。でもプレセアの辛さ、悲しさ、それを共感することはできるさ。」
「だって俺たち、なか…」

”仲間”と言いかけていたロイドの唇をプレセアの唇が塞いだ。

「ん…っ」

口付けながら自分を強く抱きしめるプレセアにロイドは驚いたが、すぐに一層強く抱き返した。

「…それ以上は、言わないでください」
「ああ…分かった」
「ほんと…ですか?」
「ドワーフの誓い、嘘つきは泥棒の始まり!だからなっ」
「…もぅ、こんなときまで…っ」

そう言って今度はロイドからプレセアに口付けをした。
プレセアの目から一粒、また一粒と涙が落ちてくるのを感じた。



+あとがき+ 2012/10/13
テイルズに限ったことではないんですがRPGをするとどうしても頭の中でカプ妄想をしていまいます。
ロイプレはもうかれこれ5年ほど妄想し続けてますね。野球選手だとそろそろ頭角を表す時期です。関係無いですね。