いつの間にか時間はどんどん過ぎていた。
「アンナ。ロイドはもう、十七になっていた。時間の流れとは分からないな」
傭兵クラトス・アウリオンは墓に刻まれた墓標を見て呟いた。
成長も衰退もしない、自分は本当に人間なのかすら分からない。
そんな中で時の流れを感じさせてくれるのは息子ロイドの成長だけだった。
「ロイドにお前のことを言ったら何と言ったか分かるか?」
「ロイド。お前の母、アンナのことだが…アンナは私が…」
「”母さん”は俺のこのエクスフィアで生き続けてるんだ!そんなこと言うな!」
ロイドは右手を見つめながらそう言い放った。
「ダイク殿に預けたときとは違う目をしていたよ」
そう言ってクラトスは穏やかな笑顔を見せた。
「…!」
ザッ… 後ろから大きな足音が聞こえた。
「…ダイク殿」
「こんなところに居たのかい。もう家ン中に大勢集まってるぜェ」
「貴方にも感謝をしなければならない」
「? 何のことでぇ」
「…ロイドの」
「かっ、やめてくれそういうの。俺が仕方なしに育てたみてぇじゃねぇか」
ダイクは大きな痰を吐き出し、クラトスの言葉を遮った。
「感謝してくれんのはありがてぇが、それを本人に伝えるのはまだ経験不足ってもんだ」
「経験不足…か。そうかもしれませんな」
何千年も生きてきた自分よりもダイクの方になぜか人生経験の多さを感じてしまったクラトスは苦笑いになった。
「元気だろう?アイツは。俺の息子だからなァ」
「ええ。元気すぎるぐらいだ。…だが世界を再生しようとする人間はあれぐらいが一番良い」
「ま、そういうこった。…お?」
気付くとシルヴァラントでは珍しい”雪”が降っていた。
「雪なんて久しぶりに見たな。お前さんもそこに居ちゃ寒いだろ。そろそろ中に入りな」
「ああ、感謝する」
『貴方の方が寒い格好しているんじゃないか』と言いたくなるような格好のダイクに
そういわれると、クラトスは木でしっかりと造られた家へ入った。
「あ、クラトス!遅いぞっ」
家に入るとまず現れたのが息子の頬の膨れた顔だった。
「まーまーいいじゃない。ちゃんと来たんだしさ!」
「そうよロイド。クラトスがこういうイベントに参加すること自体珍しいのよ?」
「わ、私はそういう風に見られていたのか…」
「あっはは!さすがのクラトスもリフィルの言葉の暴力にはかなわないねぇ」
「誰が言葉の暴力ですって?」
「ちょっ、姉さん!今ぐらい杖しまいなよ!!」
杖に魔力を溜め始めるリフィルを弟のジーニアスが何とか止め、その場を収めた。
「すまない」
「ど、どうしたのクラトスさん?」
「私が参加したせいでこのようなトラブルが発生してしまった。」
「「「「「「「………………」」」」」」」
その場が凍りついた…ような気がした。
意味が分からないクラトスは「キョトン」とした表情になってしまった。
「ハハハハハハハハ!!!」
「!?なっ…」
「クラトス、それマジで言ってんのかよ!?」
「なっ…神子!貴様どういうつもり…」
「アンタ、冗談の一つも通じないのかい?」
「い、今のは冗談だったのか!?」
この不可解な状況を理解してくれる仲間が欲しいと感じたクラトスはリーガルの方を向くと、リーガルもロイド達と笑っていた。
『これが三十歳と三千歳の違いだろうか』と、深く落ち込むクラトスであった…。
「…じゃ、メンツもそろったことだしそろそろ始めるかい?ロイドくんよ」
「そうだな。じゃ、一本ずつみんなでろうそく立てようぜ」
一人一人自分のイメージの色のろうそくを片手に持ち、中央のケーキに一人ずつ刺していった。
「後はクラトスだけだぜ」
「…うむ」
クラトスは今ここで気付いたことがあった。
それは、前の”神子の監視”の時にはずっと感じていた違和感が
今ここでこうして仲間と笑いあっている自分にはまったく感じられないことだ。
もし涙が枯れていなかったら私は今ここで泣いていたかもしれない。
思えば泣きたくなる度にアンナのことを思い出して「我慢」をしていた。
でももう…その「我慢」は必要無いのかも知れないな…
「あ、そういえばロイド。ノイシュは?」
「…ああっ!!!」
「ちゃんと連れてきてるぜェ。ったくお前はどっか抜けてやがんな」
「さっすが親父!ごめんなノイシュ」
…前言撤回、だな。私はまだ折れるわけにはいかないようだ。
少し折れかけていた自分を叩き起こし、クラトスはいつもの表情に戻った。
「パーティ、続きをするんじゃなかったのか?」
「あ、ごめんごめん。よーし、それじゃメリークリスマース!!」
「タイミング早ぇよ!!」
ロイドのお目付け役はこれからもずっとクラトスになりそうだ。
+あとがき+
クラトスのお父さん感を出したくてこんな事になりました。
ゲームソフトのパッケージのクラトスってすんげー若く見えませんか?(どうでもいい)