「す〜ずちゃん♪」
「あ、アーチェさん危ない!!」
「え?うおわあぁあ!!」

木陰からクナイがアーチェを襲う。
咄嗟のことに全く身動きが取れないアーチェに直撃しかけたその時、
すずの放った手裏剣が危機一髪でクナイを弾き飛ばした。

「こ、怖わぁ〜…」
「すみません。修行の途中だったので…お怪我は?」
「う、うん大丈夫だけど…すげーわこの子」
「ところで今日はどうしたのですか?」
「あ、そ、そうだ。すずちゃん〜明日は何の日でしょうっ?」

明日…?
すずは自分の脳をフル活用し、答えを探した。

「……こどもの日?」
「いや、そんなボケはいいから。」

あまりにベタすぎたせいかアーチェにツッコまれてしまった。
結局、すずの中で答えは出なかった。

「…分かりません。どこかでお祭りでも開かれるのですか?」
「ん〜ちょっと違うかな。正解!バレンタインデー♪」
「………………」
……ばれんたいんでー?
「やっぱり知らなかったかぁ〜。しょうがない、お姉さんがバレンタインデーを教えてあげよう!」
アーチェは「ごほん」とうそ臭い咳をし、解説を始めた。

「ふっふっふ、バレンタインデーとは…
 女の子が好きな男の子にチョコレートのプレゼントをする由緒正しきお祭りなのだ!」
「そんなお祭りがあったのですか。」
「…あ、あれ?反応薄いなぁすずちゃん?」
「私は想い人なんて存在しませんので…」
「な……な…!」

なんじゃそりゃあ〜〜〜〜!!


「〜〜〜〜って言ってたのよ!すずちゃんが!!」
「最後の一文はお前だよな?」

時は変わってアーチェは年長者であるクラースに相談した。
バレンタインという話題のこともありやはり同年代のクレスやチェスターには相談しづらかったのだろう。

「んなこたどうでもいいの!11才の女の子がだよ!?恋を知らずに終わるなんて悲し過ぎない?」
「…えーっと…それは分かったんだが…」

クラースはとりあえず困惑した。
そしてこの状況に対応するあらゆるツッコミを考えた。

「…前フリ、長くないか?」

そして出た発言がそれだった。

「いや、それはいいじゃん!でさー、クラースに頼みたいことあるんだけど」
「私に頼みたいこと?」
「すずちゃんとデートして!!」
「…………………は?」

今までアーチェの発言には何度も驚かされてきた。
が、今回は格が違った。デート?すずと?

「何を言ってるんだお前は…」
「だってさー、こういうの頼めるのクラースしかいないんだもん!」
「クレスにでも頼めばいいだろう。」
「クレスは本気にしそうだしチェスターは妹重ねちゃって何するか分かんないし…」
「で、私ということか…そもそも、すずの気持ちが大事だろう」
ふつつか者ですが宜しくお願いします。
「…えェェェェェ!?ちょ、何処に潜んでたんだお前はァァァァ!!」

藤林すず、クラースの真下の床下から参上。

「い、いいのか?私のようなオヤジとデートなんか」
「はい。異性のことを勉強するのも一つの修行かと思いまして」
「そうそう!たまには親子水入らずってやつ!」
「誰が親子だ!そ、そこまで年齢は離れてない…はず」

思えば11才の少女に戦闘での前線を任せている事を思うと『時の流れは残酷だな』と思わずため息を漏らすクラースだった。


そしてデートの当日…

「…と、ミラルドが若く見える服を選んだわけだが…何か若すぎないか?」

青いジャンバーを羽織い、黒のジーンズで決める29歳。
これほど痛いものはなかなか存在しないだろう。

「クラースさん」
「おっ、来たか。って…お前の服も若いな…まぁ実際若いんだが」

すずは髪をストレートにし、白いワンピースを着ていた。
明らかにすず本人が着慣れてない格好である。アーチェが選んだのだろう。

「で、では…行きましょうか」
「ああ…」

いつもの忍者装束と違うせいかすずはどこか緊張していた。
アルヴァニスタの宿を出て、二人は城下町を歩くことにした。

「こうして見るといろんな店が出ているんだな」
「私はアルヴァニスタに来るのもあまりなくて…新鮮です」
「へ〜え…。よし分かった、この時代のアルヴァニスタなら私が案内してやろう」

どんと拳で胸を叩き、クラースはそう言った。

「武器屋に目が止まったのか?はは、さすが忍者だ」
「なんか、嫌です…」
「嫌?」
「こういう…プライベートの場だというのに戦いに目を向けてしまって」
「すず…。慣れないことなんだし、これから変えていけばいいんじゃないか?」
「そうでしょうか」

クラースがそう言ってすずはなんとか納得した。
するとその時、すずが人集りを見つけ吸い寄せられるように向かっていった。

「なんでしょう、あれは?」
「あぁ、お菓子屋じゃないか?今日はバレンタインデーだし、チョコレートの用意をしてるんだろう」
「チョコレートですか…男性は貰って嬉しいものなんですか?」
「女性から物を貰うというのは…まぁ嫌いではないかな」
「そうなんですか…。」
「…新しい店ができてるみたいだな。料理教室?」

クラースが見つけたのは最近できた料理教室の建物だった。
今はバレンタインの季節なためチョコレートの作り方を学べるようだ。

「すずにちょうど良くないか?チョコの作り方。半日で学べるらしいぞ」
「でも私はチョコレートを渡す相手は…」
「まぁいいじゃないか。今後のために」

そう言ってクラースはすずを無理やり連れて建物内へ入った。

「いらっしゃいませ♪お二人ですか?」
「ああ。彼女の社会見学に、と思ってね。」
「それならこちらへどうぞ!お父様もぜひ!
OH...

思わぬところでアッパーカットを食らうクラースだった。
『た、他人にはこう見えているのか…やはり』

「消毒は済みましたね?では始めます。簡単なのですぐ覚えられますよ」
「は、はい…」
「さすがに本格的な厨房は緊張しているみたいだな」
「ここに固まったチョコがあるのでそれを切っていきましょう」

そこは忍者スタイルで包丁を綺麗に使い、チョコをさばいていく。

「おおぉ…さ、さすがだな…」
「痛っ」
「おいおい大丈夫か?…少し指を切ってるみたいだな。」
「テープ使いますか?」
「ああ、ありがとう」

そう言ってクラースは丁寧かつ慎重にすずの指にテープを巻いていく。

「菌が入ると困るからな。ちゃんと巻いた方がいい」
「…あ…ありがとう、ございます」

男性に手を握ってもらうことがあまりないすずは変に固まってしまう。

「はい、これで終了です♪好きな男性にしっかり、アタックしてくださいね」
「終わったな…。…すず?」
「へ?は、はい。お、終わりましたね」
「どうしたんださっきから。耳まで真っ赤にして固まって」

先ほどのクラースの行為以来、すずは全く動けずにいた。
すずは自分でも感じたことの無い感覚に困惑していた。

「バレンタインデー…」

この感じは何なのだろうか。よく分からない…
でも、嫌じゃない。これが好意、なのだろうか。


「今日はありがとうございました。」
「ああ、年寄りの散歩に付き合ってくれてありがとう」
「お礼といってはなんですが、その…これ」

すずは綺麗に包装されたものをクラースに差し出した。

「これは…チョコレートか?」
「はい。か、勘違いしないでください。今日のお礼に、ですから」

そう言ってすずは光の速さでその場から消えてしまった。

「…新しいツンデレ、か?」

クラースは静かに笑いながら部屋へ戻るのだった。



+あとがき+
クラースとすずの親子コンビがすんごい好きですもう。
本編のすずも好きなのですがマイソロのすずが可愛すぎて執筆に至りました。
思わずメンバーをチャットすずプレセアさんにしてしまうほど。ロリコン氏ね。