「あれ?俺の飯ってこんだけかよ」
「わがまま言わないでルーク。均等に分けたら一人分が少なくなるのは仕方ないわ」
「えーっ、マジかよ。しょうがねェなー」

ルークはいつも通りのわがままでメンバーを困らせていた。
他のメンバーは『またか』と思いつつ用意された食料を少しずつ食していた。

「何だよ、アニス食欲ねーのか?じゃパンもーらい♪」
「あっ!あたしのパン!!」
「んぐ。何だ、いるんだったらさっさと食えよな」

アニスは少ない自分の食料を他人に食べられたことに腹を立て、ルークの食料を横取りする。

「何すんだ!!」
「ルークがアニスちゃんのパン取るからでしょー!」
「大体俺は親善大使なんだ。尽くされるのが普通だろうが!!」

そういうとルークはその場から出て行ってしまった。
アニスも怒りが収まらずガイの食料をどんどん口に入れていった。

「あ、アニス。それ俺の…」
「何!?」
「……ご、ごめんなさい」
「ガイ、殿方が言葉で負けてはいけませんわよ」
「こればっかりは…」

何ともいえないガイであった。そんなガイを見て『相変わらずだ』とナタリアはため息をついた。

「貴方ってどうしても尻に敷かれる存在ですのね」
「ナタリアが一番敷いてるんじゃないかしら…」
「私は注意をしたまでですわ。それとガイ」
「な、何だよナタリア」
「ルークがああなったのは貴方にも責任があるのですよ」

痛いところを突かれたガイは「すみません」と言うしかなかった。

…思えばずっとそうだった。
ルークが何か問題を起こせばガイの責任になる。
それをガイは”使用人”という地位から反論できず、ずっと溜め込んでいた。

「はぁ…ルークの奴、もう少ししっかりしてくれりゃな…」

夜、ガイは溢れそうなストレスを一人で耐えこんでいた。

「ガイ?」

ガイの異変を察したのかナタリアが恐る恐る話しかける。
だがそのガイ本人はいつものスマイルで応対した。

「ん?ああ、何でもありませんよ」
「敬語はやめて、と言ったはずですわ」
「ごめん…」
「何かありましたの?自分の中に溜めずに吐き出しなさい」
「そんなこと…」

言えるわけが無い。『アンタのせいでストレス溜まってんだ』などと。

「嘘です。貴方、つらい顔をしているもの。」
「……」
「それとも…私に話せないような悩みなんですの?」

『その通り』なんて言えば自慢の弓で撃ち抜かれてしまうだろう。
想像し背筋が凍ったガイだった。

「…残念…ですわね。仲間の力にもなれないなんて…」

ナタリアは少し寂しそうな顔をしていた。ガイはそんなナタリアを慰める事も出来ず…。

「…ごめん」

結局、何も話すことができずその夜は過ぎていった。


「魔物!」
ティアが魔物の存在を確認し、戦闘態勢に入る。

「ガイ、魔物が近づいていますよ」
「え!?あ、あ…あぁ」

ガイが戦闘に集中しないなんて今までありもしなかった。
注意を促したジェイド本人も少し疑問に思いながらも戦闘に意識を向けていた。

「行きますよ皆さん、インディグネイション!!」

フィールド上に大きく電磁の層が作られ、だんだん肥大化していく。

「うおっ!きたきたぁあ!ジェイドの大技!」

インディグネイションを察知した一行はギリギリまで魔物を引きつけそこから距離をとった。

「きゃあっ!」

ナタリアが出っ張りに足を引っ掛け転んでしまう。

「ナタリア様っ!!!」

転んで起き上がれないナタリアに気づいたガイは一目散にナタリアのもとへ向かった。

「ガイ!戻れ!!」
「私はいいから、ガイ!!」
「くっ…間に合わないか!」

どうやらナタリアを抱えて術外に出るのは無理のようだと判断したガイは
とっさにナタリアを術の外に居るルークへと投げかけた。優しく、それも丁寧に。

「おわっ!」
「ナイスキャッチだルーク!絶対離すなよ…」
「が、ガイぃっ!!」
「駄目ですナタリア、もう間に合わない!」

丸みを帯びた大きな雷がガイを含めた魔物達に無情に降り注いだ。

ズシャアアアアアアン!!!

ガイィィィィィッ!!


一行は魔物が居ない事を確認すると倒れたガイのもとへ向かった。
ひどくダメージを受けているがどうやら気を失っているだけのようだ。

「ティア、ナタリア、すぐに回復術を」
「はい!」
「ガイ……私のために…」

ガイは何故こんなにも優しいのだろうか。
ナタリアはガイの優しさが嫌いだった。自分を省みず、他人を助けて…
それでいてなお笑顔で居るガイを見ていられなくなっていた。

私のために…ガイ……!!

ガイが目を覚ますまでナタリアは術を緩めることをしなかった。

「…う……」
「ガイ、気が付きました!?良かった…」
「ナタリア…無事だったんだな」
「何故です!!何故、自分を傷つけてまで私を助けて…!!大ばか者ですわ!!」
「…ごめん」
「どれだけ…心配したと…」

涙が止まらないナタリアの頭をそっと撫ぜるガイ。
それはガイがナタリアを主人ではなく一人の仲間と認めた光景だった。


後日。

「だーもー、ウゼーってんだよ!俺がリーダーなんだからお前らが俺に合わせろっつーの!」
「六人で一つのパーティなのよ?時にはあわせることも知りなさい」

人の気も知らない親善大使様はいつも通りの傲慢な態度を見せていた。
それを見ていてガイはいつも通りのため息をつくしかない。

「はぁ…ったく、アイツ…」
「まったくですわね。ルークはもっと道徳を身に付けるべきです」
「そうだな…」
「…その…ガイが悪いんじゃありませんのよ?あくまで!ルークの学習に対する意欲が問題ですの!本当ですわよ!?」
「はいはい、分かりましたよ」

少し驚いたガイだったがそれを安堵し、いつもの笑顔を見せた。
その笑顔はいつもの営業スマイルとは違ったものになっていたのも自分でも感じたガイであった。



+あとがき+
アビスの小説を書く際に思うのは俺の書くルークっていつも悪者だなと。その方がやりやすいから。
その点ガイはどのメンバーでも妄想しやすいのでどても使いやすいキャラで助かってます。(ぁ