トントン。少女がリグレットのドアをノックした。
「どうぞ」
少女はぬいぐるみを片手に扉のノブを回し部屋へと入室した。
「アリエッタじゃない。こんな遅くに」
「アリエッタ、リグレットに聞きたいことあるの」
「ふむ、どうした?」
普段と違いただならぬ表情をしているアリエッタの顔にリグレットもしだいと顔が強張る。
「リグレットはどうしていつも怖い顔をしてるの?」
『…え?』
これが全ての始まりだった。
「うわああああん!!」
「何だようるっさいな!朝っぱらから!」
「だって、だってーー!!」
明くる朝、アリエッタは仲間の男部屋へ飛び込み一番泣きだした。
「おいおい、どうしたんだ騒がしい」
「ラルゴぉ、アリエッタ、リグレットに嫌われたの!!」
「はぁ?何をいきなり…」
「うぅっ、最近何を言っても笑ってくれなくてぇ」
「ハハッ、ホントに嫌われたんじゃないの」
「うわぁぁん!シンクの意地悪!!」
例の地雷事件以来リグレットはアリエッタに笑顔を見せていない。
初めて感じる厳しさに耐えられないアリエッタはラルゴとシンクの二人に助けを求めた。
「まぁ落ち着けアリエッタ。リグレットに何を言ったんだ?」
「リグレットの顔いつも怒ってて怖いから”どうしていつも怖い顔してるの?”って…」
二人は「あちゃー」といった表情を隠せなかった。
「そりゃリグレットは怒るでしょ。ていうかリグレットじゃなくても怒るよ」
「どうして?」
「どうして、って…同じ女性に聞きなよ」
こればっかりは頭の回転がいいシンクも答えが出なかったらしい。
そして場所は変わり…
「……それで私達のところへ来たんですの?」
「うん。知ってる女の人ティア達しか居ないから…」
「冗談じゃないよ!アリエッタはあたし達の敵じゃんか!!」
アニスの言うことはもっともである。
「でもアニス、私達は敵同士である以前に女性同士よ?」
「王女は全ての民を救わなければなりません」
「もー…ティアとナタリアってば甘すぎ!」
ティアとナタリアは「困ったときはお互い様」と言って聞かず
仕方なくアニスも椅子に座りなおした。
「確かに教官が怒るのも仕方ないと思うわ。自分の顔が怖いと言われるなんて…」
「でもティアだっていつもルークに”陰険女”って言われてますわよね?」
「そ、それは…」
「ルークだったら何言われてもいいんだよね、ティアは♪」
「ちょ、それってどういう意味よ!!//」
アニスの発言に顔を赤くするティアを見てアリエッタは何かを感じた。
「…わかった…!」
「え?」
いきなりすっと立ち上がり部屋から出て行くアリエッタを見て三人は唖然。
そんな三人をほったらかしアリエッタは再びリグレットの部屋へ。
「リグレット!」
「…なんだ?」
冒頭とは明らかに不機嫌なリグレットに一瞬気が引けてきたが
勇気を持って思いついた言葉を投げかけた。
「リグレット、アリエッタのこと好きになって!!」
「…………お前は何を言ってるんだ…」
リグレットは人生で初めて頭を抱えた。
「うあああああん!!」
「また嫌われちゃったの!?」
「もう駄目じゃんそれ…リグレットに言っちゃなお駄目じゃん…」
「じゅ、17歳と思えない思考回路ですわ…」
三人も頭を抱えた。
「こうなったら…最後の手段」
そういってアニスは立ち上がり、三人を連れて町へ出た。
ヤケクソにも近い考えだったがむしろ原点回帰だ、とホントにヤケクソになっていた。
「プレゼント?」
「そう!女の心を取り戻すにはもうこれしかないよ!」
プレゼント。何かお祝い事をしてこそ意味のあるもの。
だが機嫌を取るのにもうってつけの作戦でもあるとアニスは考えた。
「でもリグレットが欲しいものなんて想像もつきませんわ」
「そこでティアの出番!ティアならリグレットと親しい時期があったんだし、それとなく分かりそうじゃない?」
「わ、私!?」
「なるほど!ティアなら…ティアならアリエッタを救えますわ!」
「そんな大層な話じゃないと思うけど…」
ティアはいきなり回ってきた爆弾に動揺を隠せなかった。
だがここは自分が何とかしなければ、というほっとけない精神が出てきてしまい…
「…し、しょうがないわね」
となってしまう。
「きゃわー☆さすがティア!で、何がいいの?」
「うーん…意外と可愛いもの好きだったりするかもしれない…」
「それティアじゃありませんの?」
「な、ナタリアそこ突いちゃ駄目だよ…ていうかぬいぐるみ差し出したら撃たれそうだよ…」
可愛いもの好き、という説は×。
「あんまり感情表に出さないですし…難しいですわ」
腕を組む三人。そこでアリエッタが口を開いた。
「…もう、いいの」
「え?」
「アリエッタが悪いことしちゃったんだから…ちゃんとごめんなさいって言う」
「え…あ…」
『アリエッタが、反省してる…!?』
アニスの頭は真っ白になってしまっていた。
そしてその間にもアリエッタはライガを呼んでその場から去ってしまった。
「うっそだぁあ〜〜〜〜〜〜!!」
ティアとナタリアの唖然とした姿とアニスの叫び声を置いて。
「り、リグレット!」
「どうしたんだ度々。私だって忙し…」
「ごめんなさいっ!!」
「!」
それはリグレットが初めて聞いたアリエッタの謝罪だった。
顔を見てみると感情を隠せないのか今にも泣きそうな表情で。
「もういいんだよアリエッタ。私も冷たくしてしまって…すまなかった」
「リグレットは悪くないもん!アリエッタが…」
「…ふう。分かった、こうしよう」
リグレットは花瓶に飾ってある花びらの大きい花を取った。
「この花びらを半分こにして二人で分けよう」
「花びら…?」
「そう。これを見るたびこの出来事を思い出して二人で反省する。それでいい?」
「…うん!」
リグレットの普段はあまり見せない優しい微笑みにアリエッタは不安が一気に取り除かれ頷いた。
「な、何とか事なきを得たみたいだね」
「ああ。俺達に被害がこなくてよかった…」
男二人が覗きながらそんなことを呟いていた。
+あとがき+
六神将中心の話書いたことがなかったので思い切って頑張ってみました。
アビスはパーティもそうですが六神将も多彩なキャラ揃いなので書いてみると楽しいですね。
リグレットとラルゴは相変わらずキャラが掴みづらいですけど。