時は大晦日。クリスマスシーズンを終えたナッツハウスは元の緩い時間を過ごしていた。
「もーいくつ寝るとぉ〜♪」
「お正月〜♪」
「外は寒いってのに元気ねぇ〜、あんた達は」
ナッツハウスにたどり着くのぞみとうららを小物作りに取り掛かるりんが出迎えた。
「おはよっ、りんちゃん!」
「おはようございます、りんさん!」
「おはよ!ナッツとこまちさんはまだ来てないよ」
時はまだ朝の6時。太陽がようやく顔を出すような時間である。
ナッツハウスの開店時間までまだ数時間もある中、彼女達が集まったのには理由があった。
「ったくー、昨日の夜いきなり言いだすんだからのぞみは」
「エヘヘヘ…ごめんごめん!でも、良いと思うでしょ?」
「はい!名案だと思いますよっ♪ナッツとこまちさん初日の出計画!」
全ては昨日ののぞみの思想から始まった。
『ナッツとこまちを二人きりで初日の出に!』
「…は?」
「突然何を言い出すのかしら…」
「えーっ、面白そう!!」
突然りん、うらら、かれんの三人を呼び出したのぞみが言い放った言葉に三人中二人は頭を抱えた。
「えーと…どうしてそんな考えが生まれたの?のぞみ」
「だってぇ、あの二人って最近良い感じな気がするんですよー。だから、…ね?」
「ね?じゃないわよ」
「悪い案には思えないけど、おふざけでやるんなら私は降りるわよ」
「そんなことない!!!」
反対する二人の言葉を遮るように発した言葉はその場の空気を一転させた。
「確かに思いつきは軽はずみだったけど…でも、あの二人には幸せになってほしいもん!」
「のぞみ…」
「りんさん!かれんさん!やりましょうよ、のぞみさんがこれだけ真剣なんですからっ」
「いや、うらら貴方は好奇心でしょう」
「あ、バレました?」
と、こんな感じで計画が始まったのだが…
「で、何か考えはあるっての?」
「…………(しーん)」
「…聞くだけ無駄ですよ、りんさん」
「…はあ…」
「で、でも!ちゃんと二人の事、真剣に考えてるよ!!」
「あのねえ、考えてる考えてるってそんなフワッフワな事ばかり言っても仕方ないでしょ!!」
「はいストップ。」
半ば口論の状態だった二人を止めたのはかれんだった。
「かれんさん!」
「いい加減にしなさい。時間がないのよ」
かれんはそう言って三人を外へ誘導した。誘導した先には縦長〜い立派な車。
「か、かれんさん?何このリムジン…今からお出かけですか?」
「じいや、トランクを開けてくれる?」
「承知いたしました」
運転席から出たかれんの執事はリムジンのトランクを開けた。するとそこには…
「…………え…お…な…」
「こまちさんとナッツぅぅぅぅぅぅ!!?」
トランクにはおそらく薬で眠らされているであろう二人の姿があった。
「な、ななな何やってんですかかれんさんっ!」
「何をやるもくそも、発案したのぞみが何も考えてないのだからこれくらいしないと」
「いやいやいや、犯罪一歩手前じゃないですか!!」
「立派に犯罪だよ…」
※この小説はフィクションです。
「水無月家の財力を甘く見ないことね!うらら!」
「えっ、あたし!!?」
「…と、とにかく…連れてきちゃったものは仕方ないから…」
「こ、これからどうするの?」
「そうね…、どうせ初日の出を見るのだから一番のポイントを探しましょう」
執事に次の命令を出すかれんの姿は三人の目から見ると頼もしすぎた。
そして無理やり乗り込む事になり、行き先を告げず出発したのだった……
「あの…かれんさん?」
「何かしら?」
「これ、どこに向かってるんですか…?」
「富士山あたりかしら?」
「Oh...」
「ど、どうしよう!もうのぞみの想像の範疇を超えちゃってるよ!」
「この人一度スイッチ入ったら止まらないからなあ…」
そして車に揺られること12時間。
あたりはすっかり日が落ち、月が顔を見せようとしていた。
「……ハッ!こ、ここは!?」
三人は最初は動揺していたものの、運転手である執事の心地よい運転で後部座席ですっかり眠っていた。
最初に目が覚めたりんがあたりを見渡すと、一面森が広がっていた。
「ここ…どこですか?」
「富士山のふもとね。言うまでもなく」
「いや言ってくれないと分かりませんよ…」
富士山といってもふもと。初日の出を見るには頂上まで登山しなければならない。
そこでかれんが持ち出したのはトランシーバーだった。
「準備はいい!?」
<<はい、こちら準備OKですお嬢様!>>
状況確認を正確に行っていたら何か上方からまた物騒な音が近づいてきた。
「うわっ!?なになに!?」
「もう朝ですかあ…!?」
「のぞみ!うらら!外出て早く上見なさい!上っ!」
「上…って、ぅえええええええ!?」
Helicopter.
それが一行の上に存在するものだった。パタパタと羽を動かし、空を飛んでいる。
問題はどうしてそれがのぞみ達の上空に存在しているのかというと…
「そろそろ二人が目が覚めるころ合いだと思うけど…のぞみ。」
「は、はい!?」
「あなたはどうしたい?」
「…私は…ですか…?」
「元々あなたの発案だから私はここまで手伝う事が出来た。でも最後はあなたの意思なの。
のぞみが本当に二人の事を思い、動こうとしているのなら全力で意思を尊重するわ」
最後の最後にかれんから突き付けられた『問題』。しかし、のぞみの答えが揺らいだ事はなかった。
「二人を、幸せにしてあげたいです」
「…そう、分かったわ。」
そう言ってトランクを開けたかれん。するとそこには…
「お、おいっかれん!どういう事だこれは!!」
「目が覚めたらいきなり暗い所でびっくりしたわ」
「お二人、悪いけどあのヘリに乗ってくれるかしら?」
「「・・・へ?」」
場所は変わり、富士山の頂上。
「…えっと、その…何だ。あいつらは何を考えているんだろうな」
「そうね…」
「それにしても寒い。かれんが防寒着を用意してくれたから良かったものの」
「あ、あのナッツさん!…そう言えば、今何時ですか?」
「ん?ああ、もう明け方の4時だな。それがどうかしたか?」
「…もうすぐ、初日の出」
「?」
初日の出が近い事を悟ったこまちは、手袋越しにナッツの手を強く握った。
「こまち?」
「ナッツさん…っ、あれ…!」
「…うわあ…」
二人の視線が見つめる先には、燦々と輝く初日。
今まで暮らしてきた地球上にこれほど綺麗に輝くものが今まであったのかと目を疑うほどだった。
「きれい…」
「ああ…」
「………ナッツさん」
「ん?」
「あけましておめでとうございます」
「…ああ、おめでとう」
+あとがき+ 2012/2/8
本当に久しぶりのナツこまです。トンデモ展開すぎます。
基本的にクールなナッツを崩すのが大好きなので書いててとても楽しかった。