冬は寒い。そんなことは当たり前。
だがこの寒さに順応できない生物が居た。
「さっ、寒いでゲソ〜〜〜〜〜〜!!」
「そりゃそうだ。窓の外を見てみな」
栄子に言われたとおり窓の外を眺めるイカ娘。
外は昨夜から降る雪によって作られた、いわゆる銀世界が広がっていた。
勿論こんな景色を見るのは初めてのイカ娘は動揺を隠せなかった。
「お、おかしいでゲソ…浜辺の色が変わっている!!」
「イカにとって雪ってそんなに珍しいのか?」
「当たり前でゲソ!そもそも海の世界では雪なんて存在そのものがありえないのでゲソ」
「ふーむ、確かにそうだな…」
「栄子姉ちゃーん、それじゃ行ってくるね」
「ん、ああ」
コートで厚着し、栄子に声をかけて出て行ったのは栄子の弟のたける。
「たけるのやつ、どこへ行くのでゲソ?」
「浜辺だよ。友達と約束してるんだってさ。ったく子供は元気でいいねえ」
「い、家の中でもこんなに寒いのにわざわざ外に行って何をするのでゲソ!?」
「知らねーよ!気になるんだったら見て来いって」
「えええ!?外は寒いから嫌でゲソ!!栄子は私が凍えたらどうなるか知ってるでゲソか!?」
「それこそ知らねーよ!!」
イカ娘はたけるの行動が不可解で仕方なかった。
確認しようにも外は寒くて出られそうに無い。でもたけるが気になる。
と、ここでイカ娘は一大決心をした。
「栄子、一緒に来るでゲソ!!たけるを追おうじゃなイカ!」
「嫌だ」
「即答!!?どうしてでゲソ!?」
「あのなぁ、こんな寒い日に外なんか出てられるかっつーの」
「ええええ!いいじゃなイカ!外に行きたいでゲソー」
「行きたいならお前一人で行け!」
「一人は嫌でゲソ〜!どうせなら一緒に行くでゲソ!」
「だからどうせって何だよ。あたしはどうせもくそも無いんだよ」
どれだけ言っても栄子は言うことを聞いてくれない。
ここで一つ、名案を思いついた。
この数本の触手を使い栄子を脅してしまえば……!!
「ぐふふでゲソ」
「声漏れてんぞ」
「あら、イカ娘ちゃんに栄子じゃない。玄関に居て寒くないの?」
「!!!」
ここに来てイカ娘の最大の敵、人類史上最強の砦こと相沢千鶴が現れた。
「あぁ、たけるを見送ってたんだ」
「そう。子供は風の子ねぇ」
「まったくだ。ところで…イカ娘」
「え?」
「何で私の腕を掴んでるんだ?触手で」
「…ハッ!」
拘束…!!こんなところを千鶴に見られてしまった…
イカ娘は命の危機を感じていた。
「うっ、うわああああああでゲソ〜〜〜〜〜!!」
「ちょっ、何すんだおまっ、うわああああああああ!!」
思わず逃げ出してしまった。栄子を放すことも忘れて。
その光景を千鶴は「仲良しねウフフ」と軽く流すことにした。
「そりゃあ!」
「うおっ、やったなたける!」
その頃浜辺ではたけると友達数人が積もった雪で雪合戦をしていた。
「こんなに雪がいっぱいあるのにお前の姉ちゃんは勿体ねーな!」
「本当だよ。夏は外ばっかり出てるのになぁ…えいっ!」
「ぅわああああああああああああああああああああ!!!」
「「!!??」」
颯爽登場イカ娘。
「ふぅ…何とかまいたでゲソ…あれ?たける、こんなところで何をしているのでゲソ?」
「それはこっちのセリフだよイカ姉ちゃん!!」
「い、いい加減腕を放せばかやろー…」
自分の姉を引きずり回した挙句薄着で寒空の下に放り出されたらそりゃ文句の一つも出る。
だがイカ娘はそんな気は微塵もなく、むしろ積もった雪に目を輝かせていた。
「うおお、地上の冬は凄いでゲソ!!本当に雪が積もってるのでゲソね!」
「もしかしてイカ姉ちゃん遊びに来たの?」
「遊ぶ?何をして遊ぶのでゲソ?」
「この雪で遊ぶんだよ!」
『雪で遊ぶ?』
冬はイカ娘にとって全てが新鮮だった。
「一緒に雪ダルマ作ろうよ」
「よし!よく分からないけどやってやるでゲソ」
「…仕方ない、ここまで来たついでだ」
たけるに雪ダルマの作り方を教わり、一所懸命に雪玉をこねるイカ娘。
それを転がし大きくしていき…ついには自分の背丈をも越える雪玉を作った。
「それからどうするのでゲソ?」
「これより小さいのを一つ作ってこれに乗せるんだよ」ぼすっ!
「うおお、これが雪ダルマでゲソか!!意外と小さいでゲソ」
「大きさは自由に調節できるよ」
「おお〜…ま、でも今は私の方が大きいでゲソ♪」
「そんなのに勝って嬉しがるなんてやっぱガキだな」
「うううるさいでゲソっ!!」
栄子、たけると三人で一緒に作ったニッコリ笑顔の雪ダルマは
イカ娘を見守ってくれているような気がした。
「ほら、そろそろ帰るぞ!姉貴たちが待ってる」
「うん。そうだね」
「?待つって何かあるのでゲソ?それに千鶴"たち"って…」
「それは行ってのお楽しみだ」
先ほどとは逆に栄子がイカ娘の手を引っ張り家に先導する。
当のイカ娘本人は訳が分からないまま連れて行かれるのだった。
「ただいまー」
「ただいまでゲソ」
「「「おかえりーっ!!」」」
「うわっ!?早苗に渚、清美に悟郎にシンディーまで!?一体どうしたでゲソ!?」
「へっへへ、何言ってんだよ!今日はクリスマスだろ?」
「バカ、イカ娘にクリスマスの存在が分かるわけないだろ」
「あー、それもそうだな」
「クリ…スマス?何かのお祭りでゲソか?」
イカ娘のあながち間違いじゃない発言に一同は顔を見合わせた。
「まあそういうことだ!年に一度、こうやってクリスマスを祝うんだよ!」
「ツリーの飾りも完成したわよー」
そう言って千鶴が持ってきたツリーには色とりどりの鈴やベルが飾られていた。
「綺麗でゲソね〜」
「人間はこれを見てケーキを食いながらクリスマスを祝うんだぞ」
「ケーキもあるのでゲソか!?」
「悟郎、それはちょっと違う」
悟郎の発言を栄子が否定したことでイカ娘の顔が曇る。
「そうか?いやでもケーキはあるぞ」
「本当でゲソ!?」
ケーキのことを心配していたのか、イカ娘に笑顔が戻った。
そして程なくしてケーキは人数分に切り分けられ、大皿にはサンタの人形が寂しそうにちょこんと乗っているだけになった。
「ケーキも美味しいでゲソ。誕生日の時は食いそびれてしまったから余計に美味しく感じるでゲソ」
「そういえばそうだったな。ほら、だったらあたしの苺あげるよ」
「ええっ!貰ってもいいのでゲソ!?」
「当たり前だ。誕生日の分」
「え、栄子ぉ…」
ガシッ!
喜びのあまりイカ娘は勢いよく栄子に抱きついた。
「わっ!やめろこら、ケーキがこぼれっ」
「大好きでゲソ〜〜〜〜!!」
「あっ、栄子ったらイカちゃん独り占めずるい!!」
「栄子、そのままよ!そのままこっちに引き渡しなさい!」
「お前らは入ってくんなややこしいっ!!」
「あははははははは!」
冬の寒い日も、相沢家は笑顔が絶えなかったという。
+あとがき+
「侵略!イカ娘」。原作はほのぼの系で夏の話オンリーなので冬にしてみました。
カップリング以外だと台本形式の書き方は難しいなあ…。