「だから!どうしてエンザは自分のパンツも洗えないの!?」
「めんどくせーからに決まってるだろ!一々変えてられっかよ」
部屋に朝日が差し込む気持ちいい朝。
だがそんな清々しい朝とは関係なくエンザとリンのケンカは始まっていた。
「大体パンツ一週間も変えないなんて…」
「あーもー…眠いんだから叫ぶなよ」
「こればっかりは引き下がれないわよ。パンツは毎日変えなさい!」
「母ちゃんかお前は!!」
だいたい年頃の少女がパンツパンツ連呼するのはどうなのかと思う。
「はぁ…飯はまだなのかよ?」
「知らない!自分で作ってよ」
「おい、何でキレてるんだよ。パンツぐらいで」
「…パンツパンツうるさーい!いいわ!出て行くから!」
『パンツパンツうるさいのはどっちだよ』とエンザはツッコミを入れたくなる。
が、フザけているうちにリンは自分の荷物(といっても服ぐらいだが)をリュックにつめ、部屋から出て行ってしまった。
「…寝るか」
それをエンザは気にすることも無く眠りに付いた。
「まったく、デリカシー無いにも程があるってんのよ!」
エンザのあまりの態度に堪忍袋の緒が切れたリンは人通りの無い山道を闇雲に歩いていた。
モンスターの巣窟へ向かっていたとも知らずに。
そして夜も遅くなってきた頃…
「……おっかしいな…アイツ、もうそろそろ痺れ切らしてんだろ…」
いつものケンカでもここまで発展したことがないためエンザは途方に暮れた。
「街から気配すら感じられねェ…って、おいまさか!」
最悪の事態が頭に浮かぶ。
”俺はもう、これ以上周りの人間を見殺しになんかしたくねえ”
”母さんみたいな犠牲者は…もう、二度と…二度と出したくねえのに!!”
「ちょっと…言い過ぎちまったかな」
エンザは重い腰を上げ宿屋を後にしたのだった。
外は雨が降っていた。霧が出て、こうなるとリンの気配も察知しづらくなる。
「ちくしょう!!」
何故こんなに自分は必死なのだろう、そんなこと考えたことも無い。
ただ人の嬉しそうに笑ってる姿が見たい、ただのお人好しに過ぎない。
「お人好しか…この俺がな。リン!何処だァあっ!!」
もうエンザの目から余裕は感じられなかった。
「う、うう…多すぎない?」
案の定というか、狼に囲まれていた。
狼達はリンが為す術を持っていない事を知ると殺気を大きくし、リンを強く威嚇した。
威嚇にやられたリンは次第に足がすくんで立てなくなってしまう。
「こんなことなら…ケンカなんかしなければよかった…!」
今まで一緒に旅をしててもずっとぶっきらぼうなエンザにはうんざりしていた。
でも、いざ居なくなったら…怖い。
ずっと助けてもらってたんだ。自分ひとりだと何もできないんだ。
『エンザ…怖いよおっ…!!』
リンが一気に怯んだ事を察すると狼達は一斉にリンに飛びかかった。
「きゃああああああっ!!」
「そこの狼、ちょっと待ったぁああ!!」
その声と共に狼の体に一太刀。
この大雑把な太刀傷はリンのよく知る人物のものだった。
「エンザ!」
「赤獅子参上!」
「な、何が赤獅子よバカっ!」
相変わらず緊張感のない男。
「お前なあ、弱いんだから勝手にヤバイところうろつくなって」
「しょうがないじゃん!だってエンザが…パン…」
「あ?」
今さら”パンツ”に抵抗が出来た、など言えるはずもなく。
「うあー!もういいからやっちゃえ!!」
「へいへい」
めんどくさそうに返事をするエンザだったが、その瞳は真っ赤に燃えていた。
リンはそれを見てエンザがますます頼もしく見えた。
「やるじゃんアンタ!背は小さいけど(ボソッ」
「おいリン!何か言ったかてめえ!」
「べ〜っだ」
いつもの喧嘩が始まった。しかし二人の表情は笑顔に近いそれになった。
「…ったく、一応心配したんだぜ?」
「えっ…」
「もうこれ以上…周りの人間を死なせたくねーからな」
「エンザのくせにそんな臭いセリフ吐いてんじゃないの」
「んなっ!うるせーバーカ!!」
やっぱりまだまだ子供…かな?
+あとがき+
別冊コロコロで連載されていた「赤きエンザ」という超マイナーな作品。
展開が王道で一度書いてみたかったんですが撃沈。リンかわいいよリン。